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1770年の秋、21歳のゲーテは、5つ年長の文学者ヘルダーと出会う。
この2人の青年の運命的な出会いが、ドイツの文豪に『シュトルム・ドランク』(疾風と怒涛)の大運動を引き起こすことになる。
ヘルダーは、主にフランスの文学の模倣でしかなかった。
ドイツの『植民地的文学』を鋭く攻撃した。文学とは、真に個性的になもの、内から湧き出るものではなくてはならない、と。
ヘルダーの影響を受け、ゲーテが繰り広げた戦いは、ドイツ文学に1つの新しい時代を劃した。
その頃ゲーテの歌った詩に、こんな一節がある。(「芸術の夕べの歌」)
あぁ、ひそかな創作の力が、
心の中を流れる音がするようだ。
みずみずしい造形の泉が、
私の指からわきでてくるようだ。
ゲーテは、型通りの形式や規則にとらわれることなく、新しい表現によって、人間ののびのびとした本然の姿を描いていく。
『若きウェルテルの悩み』は、この「疾風怒濤」の中で生まれ、ゲーテの名とともにドイツの文学を世界的に高めた、記念碑的傑作なのである。
青年ウェルテルの物語
弁護士になったゲーテは、次の年、仕事でヴェッツラルという小さな田舎町におもねく。
この地で、1人の女性シャルロッテ・ブッフと出会う。『若きウェルテルの悩み』の中でウェルテルと恋に落ちるロッテのモデルとなった女性である。
彼女には、すでに婚約者のケストネル(物語には、「アルベルト」として登場する)がいた。ゲーテにとっては、先輩の法律家である。
若きゲーテは彼女への激しい思慕の情をおさえ、四ヶ月ほどたったある日の早朝、誰に告げることもなくヴェッツラルを去った。
「若きウェルテルの悩み」は、ウェルテルが友に書き送った書簡体の作品である。
最初の手紙の日付は、5月4日、溢れんばかりの光と花々の中で、青年ウェルテルの物語は始まる。
ある日の舞踏会で、彼は、ロッテと出会う。ロッテはすでに、アルベルトという婚約者がいた。
しかし、ウェルテルは連日のようにロッテの家を訪ね、幸福な時間を過ごすのであった。
やがて旅に出ていたアルベルトが戻ってくる。寛容の人であったアルベルトは、ロッテに近づいたウェルテルに近づいた
ウェルテルとも親しい友人として接する。
日に日に高まるロッテへの思いに耐えかね、ウェルテルは別れも告げず彼らのもとから去っていく。
ウェルテルは、ある日の公使館に新しい職を得るが上司である公使は、官僚主義の典型のような人物で、事あるごとに衝突してしまう。
また封建的で古い因習にこだわる人々は、平民であったウェルテルに、あからさまに侮蔑の視線をおくるのであった。
やるかたのない憤懣と憎しみにウェルテルは悶々とする。
そんな中アルベルトから、ロッテと結婚したという通知が届く。
数日後、ウェルテルは職を辞し、放浪の旅に立つのである。
『もう1度、ロッテのもとに』
高まる思いは、ウェルテルの身も心もさいなんでいく。
ウェルテルは、自分自身を消し去る以外に、解決の方法はないと確信するようになる。
最後の別れを告げるため、ロッテのもとを訪れたウェルテルは、抑えきれぬ思いを託して歌う。
ロッテの眼には涙があふれ、詠みあげるウェルテルの心臓は今にも張り裂けそうであった。
その翌日に深夜12時、ウェルテルは、アルベルトから借りたピストルで命を立ってしまう。
「若きウェルテルの悩み」は、刊行されるや思いもよらぬ反響を巻き起こした。
ウェルテルを真似し、自殺を試みる若者が後を立たなかった。
女性は自分も『ロッテ』でありたいと願って「ウェルテル」の出現を期待し、離婚するものまで出た。
こうした世の反応に反して、ゲーテは戸惑う。
もちろん彼は、自殺を賛美など決してしていない。
むしろ、どこまでも「生きていくこと」こそ、人生にとって重要であると何度も何度も繰り返す。
彼の詩のなかに、こんな1節がある。(「楽園の書」)
彼が描き、謳い、創造したものーそれは現実に生きる「ありのままの人間」にほかならなかったのである。当時を回想し、『詩と真実』のなかでゲーテは語っている。
「いつもこの短剣をベットの脇におき、明かりを消す前にその鋭利な切っ先を二寸、三寸、胸の中に突き刺せるのだろうかと試してみた」と。
「ウェルテル」の物語は、若きゲーテの体験にもとづいていた。ゲーテ自身、内面に湧き上がる青春の劇場と戦っていたのである。
そして、「憂鬱そうなしかめ面を取り払って生きることに決心」する。
「個人的な身辺の事情が、私を急き立て、私を悩ませ、私を「ウェルテル」が生まれたあの心理状態へひっぱりこんだのだ。
私は生きた、愛した、ひどく悩んだ! それがあの小説だ。」(エッカーマン『ゲーテとの対話』)
ゲーテは、「現実」を「詩」へと昇華させることで、自分の悩みをバネとし、創造の人生を強く生き切った。人間を束縛する古き鎖を断ち切り見下ろしながら、「人間」であることを謳歌していったのである。
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